Special - Interview

島の歌姫・我如古より子と島唄・宮沢和史に聞く、民謡酒場の楽しみ方

沖縄には様々な楽しみがありますが、民謡酒場もそのひとつ。美味しい料理やお酒を楽しみながら、熟練の民謡歌手たちが歌う本物の沖縄民謡を楽しむ贅沢は、沖縄旅行のハイライトといってもいいでしょう。
今回は、沖縄に通い始めてから多数の民謡酒場を訪れている元THE BOOMの宮沢和史さんと、宮沢さんとは旧知の仲だという民謡歌手の我如古より子さんが登場。我如古さんは、コザ(沖縄市)で『姫』と、那覇の『歌姫』という民謡酒場を営んでいましたが、2016年8月に観光客が集う国際通りの中心に、レストラン形式でしっかりと食事と音楽を楽しめる『姫』と、昔ながらの民謡酒場の雰囲気を守る『歌姫』としてリニューアルオープンしたばかり。そんな沖縄民謡と民謡酒場をこよなく愛する二人に、民謡酒場の魅力について聞いてみた。

民謡酒場に行けば、沖縄民謡のことを知ることができる

―そもそもお二人の出会いは?

宮沢和史(以下、宮沢):音楽業界には沖縄の音楽を取り入れた先輩方がいるんです。細野晴臣さんとか久保田麻琴さんとか。坂本龍一さんも沖縄音楽を随分早くから取り入れていて、『NEO GEO』(1987年)と『Beauty』(1989年)というアルバムを発表しています。その時に、ニューヨークでライヴをやっていて、その映像を観たら古謝美佐子さん、玉城一美さんと一緒に、(我如古)より子さんが出ていたんですよ。

我如古より子(以下、我如古):あの時は、オキナワチャンズという名前で参加しましたね。スタッフもひとりひとりの名前が覚えきれなかったから、私たち3人を「オキナワチャン!」ってまとめて呼ばれていたんですよ(笑)。それでそんな名前になったんです。

宮沢:みなさんとても素晴らしいんですけど、僕はとくにより子さんの華と歌声に惹かれて。それで、THE BOOMのアルバム『FACELESS MAN』(1993年)に収録されている“いいあんべえ”というダンス・チューンの楽曲に参加してもらったんです。今は無きJABBYというスタジオで、より子さんの店である『姫』のメンバーと一緒にレコーディングしたのを覚えています。それが最初の出会いでしたね。

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我如古:今思い出したけれど、矢野顕子さんが『沖縄ジァンジァン』という昔あったライヴハウスに出演するというというので観に行ったら、ゲストで宮沢さんが出ていたんですよ。“てぃんさぐぬ花”を歌っていたような記憶があります。

―宮沢さんがコザの民謡酒場『姫』を知ったのもその時ですか?

宮沢:そうそう。それでお店をやっているって聞いて、沖縄に行くたびに通うようになったんです。

―そもそも、宮沢さんは民謡酒場には通っていたんですか?

宮沢:そうですね。沖縄に来はじめた頃は、民謡酒場に行けばいちばん沖縄民謡のことを知ることができると思ってかなり通いました。上原正吉さんの店『ナークニー』とか、宮良康正さんのお店とか。

―宮沢さんは『姫』で歌われたこともあるんですか?

我如古:数回ありますよね。飛び入りで歌ってくださいました。いちばん盛り上がったのは、アルフレード・カセーロ(アルゼンチンで“島唄”をカヴァーして大ヒットさせた歌手)が来てくれた時かな。彼にハグされたら汗だくで着物がビショビショになるくらい盛り上がりましたからね(笑)。

宮沢:あの時はすごかった(笑)。2002年かな。

やちむんや琉球ガラスは持って帰れるけれど、歌は持って帰れない

―民謡酒場で楽しむポイントって、ズバリなんですか。

我如古:観光で沖縄に来てくださるお客さんには、楽しい想い出を作って欲しいんです。旅行先で美味しいものを食べたら、それだけで想い出になるじゃないですか。でも、ステージに立って歌ったらそれはもっと強い想い出になって、忘れないと思うんですよ。だから、民謡酒場はいちばんいい想い出が残る場所だということはアピールしておきたいです。実は、けっこう無理強いしてお客さんに歌わせたりするんです(笑)。みんな恥ずかしがるんですけど、終わった後は「歌ってよかった!」って。観るだけでなく、自分で体験してみるとまた違うんですよ。

―たしかに、プロの唄い手の方のステージだとしても、お客さんが気軽に参加できる雰囲気はありますよね。

我如古:そう、参加型なのが大事なところです。参加することによって経験がひとつ増える。沖縄に来て、ただ見たり食べたりするだけじゃなくて歌ったという想い出になりますからね。やちむんや琉球ガラスといったもの作りは体験型で持って帰れるけれど、歌は持って帰れない。でも心に残るということが、とてもいいんです。

―僕も以前、コザの『姫』にお邪魔した時に、常連さんに泡盛をたくさんごちそうになって、フラフラで踊った記憶があります(笑)。

我如古:踊らされましたか(笑)。常連さんと出会えるのも、民謡酒場のいいところですよね。観光客が地元の人と触れ合える場でもあるんです。常連さんはみんな沖縄の良さを教えてあげたいと思っているから、観光客に親切なんですよね。踊り方や歌を教えたりして。また、『姫』はとくにステージに参加する常連さんが多いんです。素人でもうまい人がいっぱいいますよ。

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―宮沢さんは民謡酒場の魅力ってなんだと思いますか?

宮沢:今の話の通りですね。すぐに地元の人と仲良くなれる場所です。沖縄って観光地だしガイドブックもあふれている。限られた時間でリゾートを楽しんで観光するとなると、行く場所もたくさんあるじゃないですか。『美ら海水族館』も行っておきたいし。そうなると、結局沖縄の人と交流せずに終わることが多いと思うんですよ。でも、晩御飯を食べた後にでもちょっと民謡酒場に行ってみたら、地元の雰囲気を味わえる。沖縄の人って沖縄のことを語るのが好きだから、少し地元の人と仲良くなってディープな話をしたりすると、ちょっと沖縄に入り込んだという気分になるんですよね。

我如古:たまたま居酒屋で隣り合わせたという観光客を『姫』に連れてきて、おごっている常連さんとかいるからね。「知り合いなの?」って聞くと「さっき知り合った」みたいな(笑)。

宮沢:そういう体験ができて、しかも沖縄民謡を聴けるなんて最高じゃないですか。

今は歌手活動を休業していますけれど、ここでならそろそろ歌ってもいいかな、とかね。

―今回新たに那覇に『姫』と『歌姫』がリニューアルしましたが、ここはかなり画期的なお店ですね。洋風のモダンな店内でショーが観られる『姫』がある一方で、昔ながらの民謡酒場の雰囲気を保つ『歌姫』が隣接しています。

我如古:どちらのスタイルも必要だと思ったんですよ。民謡酒場って若い人たちにとっては少し敷居が高いんですよね。だから、『姫』は入りやすくしてみたというのはあります。ただ、ステージをショーとして観せるスタイルなので、そうなると発信するだけの場所になってしまう。でも沖縄の唄の文化というのは、飛び入りできるような雰囲気も必要なんです。だから『歌姫』は常連さんたちが来てくれるし、一緒に歌ってくれるようにしていまして。

宮沢:これから昔ながらの民謡酒場が少なくなっていくと思うんですけど、でもなくなるのではなく新しい役割が出てくると思うんですよ。だから『姫』はそういう存在になるはずです。昔ながらの民謡酒場にはもちろん残っていて欲しいけれど、若い沖縄好きな人が気軽に来られる店も必要ですから。

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宮沢:あとは、こういう場所ができることで、若いミュージシャンがどんどんステージに立って修練していってほしい。歌手って人前で歌えば歌うほど力をつけるんですよ。しかも、お酒を飲んでいる人の前でもあるし、そういった人はシビアじゃないですか。よければ盛り上がるし、よくなければすぐ喋り始める。そういう意味でも、訓練になる店だと思いますよ。

我如古:そうそう、下手だったら「下手!」ってストレートに言われますからね(笑)。私も小さい頃から歌っていますけれど、褒められたりおひねりをもらったりして、とても嬉しかった記憶が支えとなってるんです。あと、中学生の時にあるおばあちゃんから「あんたの歌を聞いていると寿命が伸びる気がする。だから大人になってもやめないでよ」っていわれたんです。その言葉がずっと残っているから、続けられるのかもしれないですね。

宮沢:より子さんはお父さんの我如古盛栄さんから『姫』を受け継いで民謡シーンを盛り上げてきて、今度は息子さんと一緒にさらに大きくしようとしている。本当に素晴らしいことだと思いますよ。だから、僕も時々変則的ではあるけれどイベントをプロデュースさせていただきたいなと考えています。今は歌手活動を休業していますけれど、ここでならそろそろ歌ってもいいかな、とかね。

我如古:ぜひ歌ってください!

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