Special - Interview

沖縄が生んだ20歳の映画監督・仲村颯悟が語る、新作『人魚に会える日。』と沖縄のこと。

仲村 颯悟

ミュージシャン、俳優など、沖縄には早熟の才能が多く現れる。現在20歳である映画監督、仲村颯悟もその1人だ。遊びの延長で、友だちと自主制作映画を撮り始めたのは小学生の頃。自ら脚本を書き、撮影・編集をし、自主上映会を実施し、多いときには100人もの観客を集めた仲村は、中学生にしてプロのスタッフを率いて短編『やぎの散歩』そして『やぎの冒険』を完成させた。同作は国内外の映画祭で絶賛され、次回作への期待は否が応にも高まった。
だが仲村はその後沈黙し、「映画」と呼べる作品は一切発表してこなかった。それから約5年が経った、2016年2月。ついに仲村は次回作『人魚に会える日。』を公開する。沖縄の海に生息するジュゴンに出会おうとする高校生のユメと、彼女たちを取り巻く沖縄の社会を描いた同作は、とても奇妙な手触りの映画になっている。 Cocco、MONGOL800のキヨサク、川満聡など、沖縄を代表する音楽家、俳優たちが全面協力した同作についてのインタビューから見えてきたのは、沖縄のリアリティーを巡る複雑な問いだった。

※ 本記事は『人魚に会える日。』のネタバレを含む内容となっております。あらかじめご了承下さい。

小学生のころから遊びで映画を撮っていた

—仲村さんは、短編『やぎの散歩』と、それを長編化した『やぎの冒険』を中学生で監督したことで大きな話題になりましたが、映画製作自体は小学生の頃から始めたそうですね。

仲村:映画と言っても、最初は家に置いてあったホームビデオで友だちや沖縄の風景を撮るぐらいで、完全に遊びだったんです。単純に撮ること自体が楽しくって。小学生はだいたいヒマなので、カメラを持ってうろうろしていると「なにやってんの〜」ってワラワラ人が集まってくるじゃないですか(笑)。自然と友だちを巻き込むかたちで撮影して、撮ったものを家のテレビにつないで、みんなで見ているうちに「今度は戦隊ものをマネしてみよう」みたいな話になって。物語を意識するようになったのは、そこからですね。

仲村颯悟

—早熟ですね。映画も小さいころからかなり見ていたんですか?

仲村:自分で作品を撮るようになってから『チェケラッチョ!!』とか『涙そうそう』とか沖縄を舞台にした映画は見るようになりましたけど、そこまで見ているわけではないです。ただ、岸本司監督の『アコークロー』は、僕にとってはちょっと特別な作品です。沖縄の映画というと、青い空、青い海って定番のイメージばかりですけど、岸本監督は、沖縄のじめじめした梅雨の季節を捉えていて、外向きではない沖縄を撮っていることに驚いて。

ーシナリオコンクールに応募したことがきっかけで映画化された仲村さんのデビュー作『やぎの散歩』も、あまり見ることのない沖縄の風景を捉えた作品でしたね。

仲村:そうですね。2009年の沖縄観光ドラマコンペティションに応募した脚本が選ばれて、監督することになったんです。

—中学生で、現場に飛び込んでみて大変ではなかったですか?

仲村:そのときは、大変さより楽しさが上回ってましたね。そもそもコンペティションに応募したのも、プロの人たちと映画を撮れるという副賞があったからなんです。プロの人達の仕事を見てみたかったし、ひょっとするとプロの動物とも出会えるかもしれないですし。

—プロの動物というと?

仲村:演技のできる動物っているじゃないですか。プロの現場に行けば、演技のできるヤギもいるんだろうな、と思って。いや、実際はいなかったんですけど(笑)。

“映画を撮ることは二度とないだろうと思っていました”

—仲村さんは中学を卒業して以降、本格的な映画作品は今回の『人魚に会える日。』までありませんね。すぐに次の作品に取りかからなかったのはなぜですか?

仲村:じつは、『人魚に会える日。』は、中学三年のときに撮っていたんですよ。でも僕も友だちも高校受験で忙しくなって、中途半端なかたちでストップしてしまったんです。それと、しばらく映画から離れようという気持ちもあって。

仲村颯悟

—それはなぜでしょう? 中学生監督の次回作となると、注目度も高かったはずです。

仲村:それが理由です。『やぎの冒険』で完全燃焼してしまって、これ以上いい作品はしばらく作れないと思ったんですよ。期待されているのもわかっていたけれど、「中学生が撮ったなんて嘘でしょ」って感想もあって、自分のやったことを理解してもらえない悲しさもあった。それもあって、高校では部活や勉強に打ち込んで、普通の高校生活をエンジョイしていました。そのときは映画を撮ることは二度とないだろうと思っていました。

“沖縄についてしっかり伝えないといけない”

—それは驚きです。そんな中で、本作を作ることになった理由はなんだったんでしょう?

仲村:きっかけは関東の大学に進学したことです。沖縄の若い人って県外に出たがらない傾向があるんですけど、僕は沖縄でこれ以上やることはないなと思って、外に飛び出したかったんです。それで神奈川の湘南で大学生活を始めたんですけど、沖縄のことがまったく知られてないことに驚きました。「慰霊の日」ってわかりますか?

仲村颯悟

—沖縄戦が終結した6月23日ですね。

仲村:その日は沖縄では祝日で、みんなで平和について考える催しが行われたりするんですけど、関東ではテレビ報道もほとんどない。その状況にハッとしたのですが、この感覚は沖縄の人しか感じないし、わからない。沖縄から関東に出てきた者として、沖縄についてしっかり伝えないといけないと思いました。そこで自分が一番使い慣れたメッセージを伝える手段として、映画のことを思い出したんです。

—では、上京して映画を作ろうなんて気持ちは全然なかったんですか?

仲村:さらさらないです。映画学科のある大学はいくつかあって、周囲の人から進学を薦められることもあったのですが、それにもまったく興味が湧かなくて。だから『人魚に会える日。』も自分のなかでは映画というよりもメッセージを伝える手段というか。

—なるほど。今回、非常に印象的な役でミュージシャンのCoccoさんが登場します。以前から親交があったそうですね。

仲村:『やぎの冒険』の時に主題歌を作っていただいて、その後もMVを監督させていただいたり、ずっと手紙や電話でやり取りしている友だちです。最初の『人魚に会える日。』の題字をCoccoに書いてもらったので、今回も協力してもらおうと思って、「キャストとして出てください」って手紙を書いたらすぐに電話がかかってきて。シナリオを送る前だったんですけど、「出るー! マイレージ使って帰ってくるさー!」って(笑)。

—自費で沖縄まで。

仲村:はい。試写会終わった後も号泣して感想を寄せてくれました。「自分が無力だから、子どもたちも葛藤しているんだ」って言ってくれて。

—Coccoさんの存在感がやはり凄くて、食い入るように見てしまいました。

仲村:台詞も僕が書いたんですけど、Coccoが今まで言ってきた言葉を集めて構成したものなんです。だから本番も「こんな感じのことねー」って言って、スラスラと即興的な感じで演じてくれました。ほとんど台本読んでなかったんじゃないかな。

—Coccoさんは『人魚に会える日。』の世界観を代弁するような役柄ですよね。ご自身の雰囲気にもとても合っていました。

仲村:だからCoccoだけ役名をつけなかったんですよ。「辺野座の女性」ってだけで。彼女には名前もいらないな、と思って。

“『人魚に会える日。』は自分のなかでやりたいことをやってやろうと覚悟してました”

—そんな『人魚に会える日。』ですが、以前、仲村さんを紹介したテレビ番組で断片的に映像を見た感じでは、沖縄の社会状況を反映させた青春映画だと思っていました。ところが、全編を通して見ると驚くべき展開をしますよね。

仲村:自分でもなんでこうなっちゃったのかわからないんですけどね(笑)。最近はインタビューされる機会が増えているんですが、やっぱりメディアに取り上げられる僕は、辺野古の基地問題を大学生監督が捉えた、みたいな紹介のされ方ばかりなんですよ。それが、今のマスコミ的にキャッチーだというのはもちろんわかっているんですけど、実際はそんなんじゃないんです。映画監督として沖縄を伝えるとしたら、今の沖縄を切り取るだけだったらしょうもないな、という思いがあって。

—それだけならドキュメンタリー映画でいいはずですよね。

仲村:そうなんですよ。『やぎの冒険』がフィクションだったように、今回もフィクションの世界を描いた方が面白くなると思ったんです。それに今回は製作も宣伝も完全に自主制作の体制ですから、自分の好きなように、好きなだけ面白いことをしようというのがありました。そのせいでやりたいことを詰め込みすぎちゃって、ゴチャゴチャした物語になっちゃったんですけど。

仲村颯悟

—青春+社会派+伝奇ホラーというか……。

仲村:そうです(笑)。でも「問題作になるだろうな」っていうのは作る前から感じていたんですけど、基地移転の問題を神話的なフィクションで扱うことに対する疑問は周りからもありました。「基地移転に反対でもなければ賛成でもない。それでメッセージを伝える、って言っている意味がわからない」と言われたり、神様の怒りを鎮めるために生け贄を捧げる習慣が沖縄にあるという描写は失礼じゃないか、とか。

—実際、生け贄を捧げることが両義的な意味を持つような描写を作中ではしていますね。それは、沖縄じゃ無い場所から基地問題を見ている人間からすると、ちょっとびっくりするものというか。

仲村:なるほど。でも『やぎの冒険』を撮って、もう映画はやめようと思っていたくらいだから、失うものは何もないなと(笑)。だったら最後の作品として、『人魚に会える日。』は自分のなかでやりたいことをやってやろうと覚悟してました。その結果、自分にとってもはじめて「おおお!」と思える素敵な作品に出会えた感じです。

賛成派でも反対派でもない、大多数の意見が入っている

—さっきも言ったように、『人魚に会える日。』には不思議なリアリティーがあります。ある意味では辺野古の基地移転を容認するようにも見えます。

仲村:辺野古の問題については中学生のときからずっと調べていて、辺野古の人たちがどういう状況に生きているかっていうのも、今みたいに騒がれる前から知っていたので、それが大きな理由だと思います。沖縄の現状を扱うドキュメンタリーはたくさんあるんですけど、正直言ってピンとこないんですよ。

—その理由はなんでしょう?

仲村:基地問題だったら基地問題だけを取り上げていて、そこに住んでいる人たちはどう思っているのか、問題がなぜ生まれたのか、ってところまで踏み込んでないからです。賛成派と反対派に二極化されて、その間にいる人たちの意見はどこにもないというか。たしかに基地問題について「わからない」と答える人は多いけれど、その真ん中の意見は数に入れなくていいみたいになっているのが納得できない。みんな、ちゃんと考えたうえで「わからない」って言っているのに、「あなたたちは何も考えてない。もっと沖縄について考えないといけない」って責められたりする。全部、上から目線なんですよね。だから『人魚に会える日。』には、賛成でも反対でもない人たちが登場するんです。そういう人たちがどういうことを思っているのか、伝わればいいと思って。

—例えば、米軍基地がなければ沖縄の経済は回らないじゃないかっていう指摘もありますよね。

仲村:でも逆に、基地がなくなっても生活できるよ、っていうデータも出ているんです。現在の基地への依存度はこのくらいで、基地の土地が返還された場所ではこんなにも経済が成長しているんだよ、っていう。つまり「どっちを信じて選択するの?」みたいな状況にこそ沖縄県民は置かれている。

—賛成or反対だけではなく、もっともっといろんな意見と、いろんな気持ちを持っている人たちが、チャンプルー状態にいるというのが、仲村さんにとってのリアリティーだと。

仲村:まさにそうです。だから『人魚に会える日。』の主旨は、それをさらにチャンプルーにさせようっていうことなんです。それから基地問題は沖縄だけの悩みではない、ってことです。世界中に目を向ければ、例えばアマゾンの森が開発のために伐採されていることや、いろんな国で進んでいる経済格差だって全部つながる話でしょう。広い規模の話を今回のシナリオに込めたつもりだし、スタッフも同じ気持ちです。

—ゴチャゴチャした映画になっちゃいましたと仲村さんはおっしゃっていましたが、それは意図したうえでのことなんですね。そのチャンプルー状態自体が、何かを表している。

仲村:はい。いろんな意見はありましたけど、それは作品が完成して、宣伝するときに考えればいいのであって。作品としては何も変えなくいいかなと思ってます。この映画を見ることで、沖縄にはこういう見方や意見もあるんだっていうことが伝わると嬉しいですね。

仲村颯悟

Information

人魚に会える日。
2016/2/21(日) 沖縄・桜坂劇場ほか、全国順次公開
3/3(木)より東京 渋谷・ユーロライブで公開決定!
©映画『人魚に会える日。』製作委員会
2015年/日本/93分/カラー
配給:RYU-GOATS
配給協力:エレファントハウス/宣伝協力:フリーストーン
オフィシャルサイト

Event

人魚に会える日。
開催日
2016年02月21日〜2016年03月05日
開催時間
2月21日(日)11:00 / 15:50 / 17:50
22日(月)10:10 / 12:10 / 18:50
23日(火)〜25日(木)10:10 / 12:10 / 14:40 / 18:50
26日(金)10:10 / 12:10 / 21:10
27日(土)〜3月4日(金)12:40 / 14:30 / 19:20 / 21:10
5日(土)調整中
チケット(入場料)
前売り1,000円 / 一般 1,700円
イベント会場
桜坂劇場
イベント会場住所
沖縄県那覇市牧志3-6-10
イベントURL
http://www.ningyoniaeruhi.com/
問い合わせ
098-860-9555
E-mail
ryu-goats@ningyoniaeruhi.com
チケット購入方法
沖縄県内ローソン全店Loppi端末(Lコード:84871)
仲村 颯悟
仲村 颯悟

Profile

仲村 颯悟

1996年1⽉10日、沖縄県沖縄市生まれ 。小学⽣の頃から映像制作を行う。第1回沖縄映像コンペティ ションに応募し監督した短編「やぎの散歩」が国内外から絶賛されたことをきっかけに、13歳の時に『やぎの冒険』(2010年)で全国デビュー。同作は沖縄県内で大ヒットを記録したほか、上海国際映画祭をはじめ海外の映画祭に正式招待され話題を呼んだ。2012年、「世界まる見え!テレビ特捜部」(NTV)において実施された映像コンテストにて、ビートたけしより「たけし賞」を受賞。 現在は慶應義塾大学に在学中。最新作『人魚に会える日。』は、沖縄の大学⽣スタッフと共に作り上げた5年ぶりの長編作品となる。

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