Special - Interview

沖縄から、次世代のヒーローを作る。琉神マブヤー・スーツアクター翁長大輔インタビュー

翁長 大輔

沖縄が生んだ特撮番組「琉神マブヤー」。2008年にスタートしたこのテレビシリーズは、あっという間に県内で人気を呼び、県外でも放映されるなど、熱狂的な人気を集めている。その主役つまりヒーローのマブヤーを演じるスーツアクターが、今回登場いただく翁長大輔だ。
まず、ご存知無い方に簡単に「琉神マブヤー」の解説をしておこう。「琉神マブヤー」とは、沖縄の大切なもの(マブイストーン)を奪おうとする悪の軍団マジムンと、沖縄の平和を守る正義のヒーローとの戦いを描いた、いわゆる戦隊モノの特撮番組である。他の戦隊モノと違うのは、沖縄の方言や生活をふんだんに取り入れていることと、シリアスなだけではなくコミカルなやり取りが交わされること、そして、沖縄の伝統や文化の大切さをアピールする社会性に富んだストーリーであるということだ。
スーツアクターとしてキャリアをスタートさせながらも、今やお茶の間にもその名を知られる翁長大輔。沖縄アクション界を背負う彼に、これまで、そしてこれからのことを聞いてみた。

「ヒーローになって給料もらえるなんて最高だな、って」

—今や沖縄で最も有名なヒーローである翁長さんですが、スーツアクターの仕事はどのようにしてはじまったんですか?

翁長:高校生活が落ち着いた頃って、みんなバイトをするじゃないですか。自分もやろうと思って求人誌を見ていたら、「ヒーローショーのイベントスタッフ募集」って書いてあったんですよ。「ヒーローになって給料もらえるなんて最高だな(笑)」って面接に行ったら、そこのお姉さんがとても優しくて。「翁長くん、爽やかでいいね、来週から稽古に来てくれる?」なんていわれて「もちろん、いいっすよ!!」って。それが泥沼の始まりだったんです(笑)。入って2週間くらいで現場があって、何もわからないまま怪獣の中に入ってボコボコにされました(笑)。着ぐるみって本当に重いし臭いしまともに動けないし、大変なんですよ。

© 2015 MABUYER PROJECT

© 2015 MABUYER PROJECT

—いきなりキツい思いをしたんですね。それでも辞めようとは思わなかったのはなぜ?

翁長:表に立つのが好きだったから、なんだか楽しかったんですよね。それで、次にもらった仕事が、主役側だったんです。で、終わったら握手会があるんですけど、公演後にとにかくたくさんの子どもが待っているんです。中身はただの高校生じゃないですか。でも見えないところまで並んでいるんですよ。

—たしかにそれは驚きますよね。

翁長:とにかくみんなすごくキラキラした目で見つめて、握手を求めてくるんですよね。「なにこれ、面白い!」と思って。本当の自分とは違う、演じているキャラクターに憧れてくれているというのがいいなあって。週に2回無給の稽古があるんですけど、交通費を考えるとバイトとしては赤字なんですよ。でも、あまりにも楽しくて辞められなかったんです。

—「琉神マブヤー」に出演することになったきっかけは?

翁長:事務所が変わったり、フリーになったりしながらも、平日は居酒屋でバイトしながら土日はずっとヒーローショーとか着ぐるみの仕事を続けていたんですけど、そんなときテレビ放映が始まって、「俺の方がアクション上手いのになあ……」とかブツブツ文句言いながら見ていたら、たまたま(琉神マブヤーの)クーバーという役が空いたよって話を人づてにもらって、「やります!やります!」って(笑)。それが22歳の時ですね。

—チャンスが回ってきたわけですね。

翁長:クーバー役で「琉神マブヤー」に参加して半年くらいたった頃、僕以外のメンバーが全員抜けるということになったんです。それで「お前が主役のマブヤーやってくれないか?」ってことになったんです。それで再スタートを切ったのが、2009年の夏です。それからずっとマブヤー役をやらせてもらっています。
 
—お話を聞いていると、倍率の厳しいオーディションをかいくぐって勝ち取ったとか、そういう話が出てこないですね(笑)。

翁長:僕はラッキーボーイなんですよ(笑)。開ける扉がすべていい方向につながっているんです。障害があっても気付いてないだけかもしれないけど、そういうことに目がいかないし、とにかくポジティブ。楽しいことばかりやっていると、いい巡り合いがあるんですね。本当に周りのみなさんのおかげ。たぶん、周りに天使がいっぱいいるんだと思います(笑)。

「僕たちのファンは小さい子どもたち」

—2009年にマブヤーの主役を始めてから、環境に変化はありましたか。

翁長:最初のステージが、1700人くらい収容する劇場でのショーだったんですけど、このときは地獄でしたね。前の(スーツアクターの)メンバーチームはとにかくすごい人気だったのでプレッシャーがきつくて。まあ、結局その日はスベリまくりでしたね(笑)。

—すべてが順調だったわけではないんですね。

翁長:今でこそ楽しんでいただいている実感が出てきましたが、その頃は辛くて試行錯誤を続けていました。当時は夕方6時から夜中の1時まで毎日稽古して、朝の7時から3店舗で握手会して移動して、また稽古。でも、チームのメンバーが支えてくれて、なんとか乗り切りました。もちろん、最初厳しい意見も多かったんですが、「僕たちのファンは小さい子どもたちだから、子どもたちが楽しめるショーをやっていれば大丈夫」と信じてやり続けました。

—何があってもブレない軸をつくったわけですね。

翁長:「琉神マブヤー」のショーは、大人も子どもも一緒に楽しめることを意識しているんです。だからセリフのやりとりも非常に重要なんですよ。

—芸人レベルのトークを期待されるということですか?

翁長:そういうことです。そのトークも醍醐味のひとつなんですよ。僕らはテレビと同じ配役でショーをしているから、おしゃべりもそのクオリティを保たないといけない。

—そしてとうとう、“マブヤーの中の人”が、顔出しをしたんですね。

翁長:そうです。作品の流れで主役の叶(カナイ)役もやることになって、俳優デビューしました。演技の勉強をしたことがないから、役者や俳優って言われるとドキッとするんですよね(笑)。

© 2015 MABUYER PROJECT

© 2015 MABUYER PROJECT

—実際、テレビに顔が出ると、環境や考え方もずいぶん変わったんじゃないですか。

翁長:別に何をする訳ではないですが、悪いことはできなくなりましたね(笑)。「琉神マブヤーやってる翁長です」というと名刺持ってなくてもすぐに覚えてもらえますし。そういう意味では、本当にマブヤーをやれてよかったと思ってます。

“マブヤー”に感謝しつつ、“脱マブヤー”を掲げる

—その後、翁長さんは2011年にアクション・スクール「NEXT HEROS」を立ち上げていますが、これはどういった経緯で?

翁長:子どもたちに空手や体操を教えたいなあって。その頃、比嘉健雄さんという人がクーバー役で入ってきて、彼はアクロバットもできて指導力もあるんです。それで、出会った瞬間に「今だ!」と思って、一緒に始めたんです。子どもたちを次のヒーローにしようという気持ちを込めて「NEXT HEROS」と名付けました。

—憧れのヒーローに教えてもらえるっていいですね。

翁長:子どもたちの夢がヒーローになることだったら、僕たちはヒーローになれる方法を知っていて教えてあげることもできる。僕がアクションを始めたのは17歳ですけど、3歳からアクションを始めたらどうなるんだろうって。この身なりと顔で、沖縄で一番有名なヒーローになれたんだから、イケメンで身長高くて運動神経も良ければ、末恐ろしいですよね(笑)。今は県内4カ所でスクールをやってるんですけど、生徒はトータルで150人くらいいます。

—もう4年くらい経ちますが手応えはどうですか。

翁長:地道に広がっているという感じですね。僕らは謳い文句に「琉神マブヤー」を出さないようにしているんです。もちろん“マブヤー”は、名刺にはなるけどそれだとイメージが固まってしまう。だから、マブヤー役だけでない自分の仕事もどんどん続けていかなきゃと思っていますね。

—そういった意味でも、「NEXT HEROS」は翁長さんのアイデンティティといってもいいですね。

翁長:そうですね。マブヤーは自分そのものではないし、一番超えないといけないライバルみたいなもの。あと、僕自身は、アクション俳優やスタントマン、スーツアクターなどを目指す人たちが仕事しやすい環境を作ることに興味があるので、「NEXT HEROS」の活動もその一環です。

沖縄のチームで作品を作って、県外や世界に持っていきたい。

—翁長さん自身としては、もっと俳優として売れたいとか、そういう気持ちは無いんですか?

翁長:売れたいという気持ちはまったく無いです(笑)。それよりは好きな仕事、楽しい仕事をしたい。僕はラッキーなことに好きな仕事をさせてもらっているし、仲間もたくさんいる。でも、お金があまりない業界なので、どうやって稼いで、生活していけるかということを常に考えています。

—そこから作っていく必要があると。その他に、翁長さんは「チョンダラーズ」というコミカルなショーもやってますよね。

チョンダラーズ

チョンダラーズ

翁長:「NEXT HEROS」のメンバーだけで何かできないかなと思って。エイサーという沖縄の伝統の踊りに顔を白塗りにした役柄があって、それがチョンダラーっていうんですが、言葉を使わずに動きだけで、場を盛り上げたりする道化師みたいな役割なんですよ。そのイメージでパフォーマンスを始めたら、いろんな人たちと繋がりもできて、おきなわ新喜劇ツアーの舞台に出させてもらったりもしています。

—「チョンダラーズ」アクションだけでなく、マジックやパントマイムを取り入れたりして、とてもよくできていますね。

翁長:何がしたいかではなく、何を見たら面白いかなっていうところがポイントですね。結局、スーツアクターって何にでもなれないといけないんですよ。弱いキャラも強いキャラも敵も味方も。だからいつもプレーンな状態でいて、その時その時の役割を演じることが大事なんです。チョンダラーズもそのひとつだと思ってます。

—将来的にもっとやってみたいことってありますか。

翁長:アクションチームとしては、沖縄でしっかりとアクション撮影の地盤を作りたいですね。沖縄の映像業界には、スタントや吹き替えのノウハウもあまり無いし、そういう感覚も少ない。でも、県外、海外だと吹き替えを使ったり、安全管理をしっかりしたり、そういうことは当たり前にやっている。そのシステムをしっかりと構築したいです。スクールとしては、県内の離島でもキャラバンスクールみたいに回れないかなと考えています。離島の子どもたちにも、アクションや体操の面白さを伝えられたらいいなと。個人的な目標は、早く結婚して子どもが欲しい(笑)。

—ちなみにご予定は?

翁長:うーん、もうちょっと稼げれば(笑)。そもそも沖縄で役者をやって稼げている人がいるのかなあって思うんですよ。だから、そういう市場を作るところから始めないといけない。「NEXT HEROS」ではUstreamで番組をやったりするんですが、8割が内地からのアクセス。だから、県外でのチャンスもあるはずなんです。そして、沖縄のチームで作品を作って、県外や世界に持っていきたい。幸い「琉神マブヤー」ではそこそこできているので、そこを手本にしながらもっと世界を広げていきたいですね。

5

翁長 大輔
翁長 大輔

Profile

翁長 大輔

高校卒業後、東映代理店『ヒーローアクションクラブ』に所属後、ヒーロー系のアクションショーに多数出演。その後フリーに転向し、マブヤー企画と専属契約し琉神マブヤー役に抜擢。沖縄県内・県外各種番組において琉神マブヤーとして数多く出演。2011年に『NEXT HEROS』を設立。現在、イベントショー・TV・CM・映画などで活躍。
https://twitter.com/onagadaisuke?lang=ja

Editor’s Choice

編集部のオススメ

Facebook

ページトップへ戻る