Special - Interview

沖縄で演劇? 津波信一率いる「TSJ」がつくる、沖縄の演劇シーン

TEAM SPOT JUMBLE

沖縄県で、“信ちゃん”(津波信一)を知らない人はいない。役者、タレント、MC、リポーター、ナレーター、いくつもの“顔”を持つ津波氏は、沖縄を代表するマルチタレントの1人で、その親しみやすいキャラクターと軽快なトークで、全県民に愛されている。そんな津波氏が主宰をつとめる劇団が「TEAM SPOT JUMBLE(以下、TSJ)」だ。 「TSJ」は、個性的な演技に加え、ダンス・アクション・コメディなど、様々なパフォーマンスを織り交ぜ、オリジナルな世界観を創り出し、沖縄の演劇界を牽引する劇団の1つとして知られる。津波氏を中心に、いつでも笑いが絶えない、ファミリーのような劇団全員に、TSJの魅力と、沖縄演劇界の “らしさ”とこれからの“展望”について伺った。

一人ひとりにスポットがあたるように。

—早速取材を始めさせていただきたいんですが、ここはもうあえて「信ちゃん」と愛称で呼ばせていただきたいのですがよいでしょうか?

津波:そりゃもう、どうぞどうぞ!

(前列左より)末吉 功治、津波 信一 “信ちゃん”、島袋 寛之 (中列左より)比嘉 恭平、ナツコ、玉榮 日也美、与那嶺 圭一 (後列左より)村山 靖、小渡 俊彰、〇〇〇〇

(前列左より)末吉 功治、津波 信一 “信ちゃん”、島袋 寛之
(中列左より)比嘉 恭平、ナツコ、玉榮 日也美、与那嶺 圭一
(後列左より)村山 靖、小渡 俊彰、上地 竜司

—沖縄県民で、信ちゃんを知らない人はいないと思います。ぼくもテレビやラジオ、それから知人の結婚式とか、色んな場所で信ちゃんを目にしてきました。

津波:いやいや、そんな、ありがとうございます。何かこの後キツい仕打ちがあるとかっていうトラップですかね?(笑)

—いやいやいや。でも、県外の人はなかなか沖縄のエンタメに触れることはないでしょうし、県内の人でも、信ちゃんが率いている演劇集団「TEAM SPOT JUMBLE(以下、TSJ)」のことはよく知らない人もいると思います。ということで、まずは「TSJ」結成の経緯から教えていただけますか?

津波:俳優の三宅裕司さんの劇団「スーパー・エキセントリック・シアター」が、2004年~2005年に沖縄で、マルチ・パフォーマー・オーディションを開催したんです。もともとは、その合格者数人を中心につくったのが「TSJ」なんですよ。
 
—となるともう10年近く前のことになりますね。

津波:そうです。最初は、末吉(功治)なんて、島ぞうりはいて、なんか斜に構えて、前髪こんな長いリーゼントで、「あぁ!?」みたいなかんじだったんですよ(笑)。

末吉:違う違う!(笑)

津波:いや、ホントそうだったよ。

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—(笑)。そのメンバーが中心となって、活動開始後に加わったメンバーも多いんですか?

津波:いや、それ以降、メンバー募集はしてないんです。ただ、どうしても入りたいという人が門を叩いて集まっていったという感じです。でもって、毎年契約更新。プロ野球みたいに、ン百万円年俸アップとか全くないけど(笑)。

—10年近く続いているというのはすごいことです。「TEAM SPOT JUMBLE」という名前の由来は?

津波:みんなの意見を取り入れてできた名前です。“JUMBLE”は、“ごちゃまぜ”のスラングですが、そこに(沖縄の言葉でも同義の)“チャンプルー”もからめてます。個性あるいろんな人が集まって、それぞれにスポット(光)が当たる、そんなチームをつくろうと。

—一人ひとりにスポットが当たる。いいですね。

津波:まあ「ツハシンイチ・ジャパン」、「ツハシンイチ・ジムショ」、でもよかったんですけど(笑)。

一同:やめてください!(笑)

本公演は、必ず全員出演。

—「TSJ」の作風としてはどんな特徴があるんですか?

津波:うーん、なんでしょうね……。まぁ、ボクらはなんでもありの劇団なんです。今回は時代劇、次回はSF作品、その次は歌を入れてみました、とか。そのときそのとき、ボクらが面白いと思うことをやっているっていう意識はありますね。だからあまり流行がどうとかは関係ない。パフォーマンスとかも何でもありだし。

—まさにそこが「JUMBLE(ごちゃまぜ)」ということなんですかね。脚本はオリジナルなんですか?

津波:できるだけ、東京とかでやっているものの焼き直しなどはせず、オリジナルにこだわっていますね。やっぱりカバーはオリジナルを越えられないですから。むしろ、死ぬまでに一本は、カバーされるようなものを作れたらいいなって思ってます。

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—公演になると、やはりメインとなる方々が出演されるんですか?

津波:いや、劇団の集大成である本公演は必ず全員でやろう! と決めているんです。それはもう絶対。それぞれ個々の活動も重視はしていますが、まず全体のお披露目会的な意味合いで本公演があります。その中で、生き残っていくためにも、いい意味で一人ひとりをばら売りできれば。

TSJメンバーの個性と強みを最大限に活かした稽古場での公演

—では、実際に2014年に行なわれた前回の公演について少し聞かせてください。『Keikobar』は、劇団初の試みとなった稽古場での公演だったんですよね?

津波:まず劇場探しって、いろいろお金かかって、それだけで相当大変なんですよ。特に1,000人規模の大きさの劇場になると。そんな中「身近にいいハコ無いか?」って、探してる時、自分たちの稽古場でいいんじゃない? って話になったんです。最初は、稽古場の隣が『ラウンドワン』(注:ボーリングセンター)なんで『ラウンドツウ』にしようかとか(笑)。みんな各々でプレゼンするんですけど、稽古場でありつつも、バーみたいに一杯飲みながら観れたらいいなとなって。それで普段よりは小規模なかたちの公演として「Keikobar」が生まれたんです。

—あえて小さいハコ(場所)を選んだんですね。これは、どんな作品だったんですか?

津波:普段の劇場では30分の芝居をオムニバスで繋げてやったりしたんですけど、一度お客さんに観せたらハイおしまい……と、次にやる機会が少ないですよね。せっかく作ってもでそれで終わり。それがなんかもったいないと思っていたんです。確かに作品はいつも新しい必要はあるんだけど、古い作品を観てない人もいる訳だから、その人達に過去の作品をリメイクしながらいろいろ観てもらえる機会があったら面白いかな、と思って。

—ということは、『Keikobar』は過去作品の再演でもあったんですね?

津波:そうです。でも、スパイスとして毎回役者を換えてみました。同じ人が同じ作品を3回観に来ても、演じる人が違うので一粒で3回おいしいみたいな。「あの味でこの軽さ」。まるで、セブンスターみたいな。何を言ってるんですかねー(笑)。(注:「あの味でこの軽さ」=セブンスターの初期のコピー)

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—(笑)。まさに、全員にスポットがあたっているわけですね。

津波:みんなそれぞれ、そいつなりの良いものがある。それが「TSJ」メンバーの個性でもあり、強みでもある。同じ塩でも、どれも味が違いますよね。そうやって変化を付けると味が出る、それで良いと思うんですよ。

—それで、初の稽古場での公演というのはどうでしたか?

津波:よかったですよ。ただ、ここは50人位しか入らないので。小さいところを一つひとつ抑えていきながら、大きいところも目指すというように、両方をフットワーク軽くやっていきたいですね。やっぱり大きいところはお金かかるんですよ。劇場と音響さんと照明さんにお金払うために頑張っているんじゃないかって思うくらいです(笑)。いつも時給マイナス600円くらいだもんね(爆笑)。

うちなんちゅ(沖縄の人)がどんなに背伸びをしても、うちなんちゅでしかないんですよ。

—「TSJ」は沖縄発の劇団ですが、やっぱり沖縄から発信するということを意識していますか?

津波:特別に「沖縄だからこうじゃないと」っていう意識はないです。でも、やっぱり、うちなんちゅ(沖縄の人)がどんなに背伸びをしても、うちなんちゅでしかないんですよ。普段ここで生活をしている人がやるものだから、どうやったって空気感として反映されてくる。それが沖縄の等身大の今の姿にもなっているし、「TSJ」らしさかもしれませんね。

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—お客さんとして、県内と県外、どちらを意識していますか?

津波:やっぱり「地元」をまずは味方につけないと。地元に応援されているからこそ、東京でも胸を張ってやれる。だから沖縄の人に笑って喜んでもらったものを、東京でやりたいんです。県内のファンを増やす努力が、まだまだ足りていない。

—逆に県外からのお客さんもいらっしゃるんですか?

津波:最近は県外からも結構お客さん来られるんですよ。たまたまブログ見たとかラジオ聞いたとか。今は、ありがたいことにチケットはどこにいても買えますからね。そのアンテナがどこに引っかかるか分からないので、県外に向けても、情報を発信し続けていくことはやっていきたいですね。

—まずは県内、それから全国、ですかね。

津波:沖縄で代表する劇団になりたいし、もっともっと地元のお客さんを開拓したいと思っていますが、それとは別の視点も必要です。だって、沖縄ってこれだけ多くの観光客が来ているんですよ。まずは、観光客600万人の0.1%でも来てもらえれば、僕ら、ひいては沖縄の演劇シーンの状況は必ず変わっていくはずです。

—たしかに、沖縄にはそういうチャンスがありますよね。とは言え、演劇ってやっぱり興味がない人にとっては高いハードルだと思います、正直。
—目の前の人に届けることは変わらないと。

津波:ですよね。とにかくお客さんが劇場に来てもらうために、積極的に開拓していかないと。待っていたってダメなんですよね。例えば、お客さん一人がもう一人連れてきてくだされば、簡単に言うと倍になるんです。そこら辺、うまく、「演劇界のねずみ講」を作りたいんでよね(笑)。もちろん、社長の僕が一番儲かるんですが(爆笑)。

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一同:ダメダメ!(笑)

—(笑)。沖縄だからこその大変さもあるんですかね?

津波:毎回一日も早い完売を目指しているんですが、沖縄はギリッギリまでチケットが売れないですね。遅い、っていうか本当にゆるい(笑)。当日来て「前売り券ちょうだい!」って平気で言いますからね。日本語がおかしいじゃないですか(笑)。ちょっと語弊があるかもしれませんが、演劇を見に来てくださるお客さん側も鍛えて、自分たちと一緒に盛り上げていかないといけないなって思ってます。

末吉:とにかく食わず嫌いの人が多いので、僕はまず一回だまされて見てみて(笑)! って、チケット渡しちゃうこともあります。来た人を満足させたいし、逆につまらなかったら出て行っていいんです。それで、面白かったら次も来てよって。一度でも沖縄の演劇が面白いものとして知ってもらえたら、もっと身近になって、全体が変わっていくと思うんです。

演劇は、そこにしかない瞬間。

—ではずばり、演劇の魅力とはなんでしょう? 

津波:生(ライブ)に尽きますね。音楽はTVでもCDでも楽しめますけど、演劇は、そこにしかない瞬間。そこにある時間を共有することなんです。感動あり、笑いあり、涙あり。絶対に後悔させない面白い瞬間がそこにあるんです。

—「絶対に後悔させない」。いいですね。では、次回の本公演『EDEN』はどのような作品かお知らせいただけますか。

末吉:話は、近未来の地球。サイバーパンクのテイストを入れたSF作品です。ざっくり言うと……エイリアンと戦う話です。

津波:めちゃくちゃざっくりしてるな!(笑)

末吉:ですね。ダンスアクション、笑いと涙ありです。あともう一つ、今回のサプライズ的な要素としては、プロジェクションマッピングとELワイヤー(光る衣装などに使われるグッズ)を使ったパフォーマンスですね。

—プロジェクションマッピングまで! それは楽しみです。ちなみにこちらは昨年の再演なんですよね?

津波:2014年6月にやった本公演なんですが、ありがたいことにソールドアウトだったんです。でも、一回観たら終わりではなく、もう一回観せたいなって。でも、ただやるのではなく、趣向を変えたり、進化させて。内容は近未来の話ですが、僕らまだまだ、自分たちの未来が見えて無いですからね(笑)。

一同:爆笑

—いやいや(笑)。では信ちゃん、「TSJ」としてこれからの展望を。

津波:今年は“再演祭り”で、寝かしてた作品を、テイストを変えてやってみたりしたいんですが、来年(2016)は、僕の芸歴25周年と、劇団の10周年がぶつかるタイミングなんですよ。

—アニバーサリーですね。何か構想はあるんですか?

津波:その時に、解散しようかなぁと思ってて(笑)。って冗談ですが、まずはそこに力を注ぎたいですね。初の琉球縦断ツアーとか。石垣や、宮古も、視野に、入れたいなぁ……と。

—沖縄縦断。いいですね。ではこれで最後ですが、「TSJ」として目指している姿は?

津波:みんな一人ひとり、全員が売れること。みんな売れて、解散! みたいな(笑)。本音を言うと、僕はお金を集めるプロデューサーもやらないといけないし、団員にも、プロとして、チケットを売らせることにも価値を持たせていかないといけない。ちょっと社長っぽすぎる発言ですかね……!? どうですか、そろそろ県知事選も出れそうですかね、僕(爆笑)?

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Information

2015年6月、人気を博した『EDEN』の再演が決定!詳細はTSJブログにて随時更新中。

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Profile

TEAM SPOT JUMBLE

2006年旗揚げ。異なるジャンルのメンバーが集まったことにより、個性的な演技に加え、ダンス・アクションなどのスタイリッシュなパフォーマンスが、『TSJ流エンターテインメント』を作り上げている。 過去に“国際演劇フェスティバル キジムナーフェスタ”や、“オーストラリア×日本合同制作ミュージカル”にメンバーが出演。アミューズ主催「東京劇団フェス’08 」に沖縄代表として招聘され、初の東京公演も果たした。CMやドラマ、映画などに出演するなど、役者・タレントとしても多岐にわたって活動している。近年では「琉神マブヤー」シリーズや「ハルサーエイカー」シリーズにも出演。 http://www.spot-jumble.com/

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